観音埼灯台 [イラスト]
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観音埼灯台
新妻を伴い若き灯台守が階段を登ってゆく。振り返ると浦賀水道の海が青い。木下恵介監督の名作「喜びも悲しみも幾年月」の冒頭場面に登場する観音埼灯台も今はもう使われてはいない。船人の航海の安全にこそなれ、相手を攻撃したり威嚇する施設でもないのに、灯台は戦時中敵の攻撃目標となって破壊され幾多の殉職者を出し、監督は戦争の狂気としてこれを作品中に記録した※1。戦後の「民主主義」は国民を平準化し無数の小市民を生み出したが、彼らは日常身辺の営利活動や娯楽に自分の生活領域を限定し、世事に敏感でありながらそれはどこまでも「他人事」としてしか見ず、水面下で進む「国家権力集中」に注意を払うことはない。監督の警告を胸に刻んでおく必要があるだろう。「ファッシズムは民主主義から生まれる」※2のだから。
※1吉本隆明が木下監督を「日本の庶民意識の中の情緒的部分を典型化」しその上にあぐらをかいていると酷評し「喜びも悲しみも幾年月」にとびつくのはおめでたいセンチメンタリストといっているが、僕はこの見解に与しない。吉本隆明「風前の灯火」映画評論1958年1月号
※2鶴見俊輔