彦根城遠望 [イラスト]
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彦根城遠望
地域労働者の共闘を呼びかけて東奔西走し、近江八幡から湖岸を愛知川河口付近まで来ると陽は西に傾き比良の山脈が黒い影となっていた。湖上遙かに伊吹山がたおやかな山容を見せ、賤ヶ岳から少し距離を置いて彦根市街が望めた。よく目をこらすと小高い丘の上に彦根城が白い点となって輝いている。道三が往き、光秀が通い、信長が覇を唱えた道を自転車を押して行くと湖面は夕陽に黄金色に輝き、あたかも希望の道を歩むかのように元気が出た。
団体交渉で会社が賃上げ額を百円、二百円と小出しにする中で妥協しようという者が増えはじめ、結束が崩れて失意のうちに彦根を去るのは翌年の春である。
京都美山町 [京都]
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京都美山町
高山寺の和尚が煎れてくれた茶をすすり、杉坂から国鉄バスに乗ったのは秋の陽が少し傾きかけた時刻だった。京北町を過ぎいくつかの峠を越えて美山町に着く頃には、あたりに夕闇が迫り紅葉した山の端が朱く染まっていた。かやぶき屋根の民家が並ぶ北村の集落では早くも明かりが灯り、農作業帰りのお百姓が荷車を引く牛の手綱を取り、後ろに麦わら帽子の子供が一人ちょこんと乗っていて、以前にライフ誌で見た東南アジアののどかな田園風景の写真に重なった。ナパーム弾の炎に逃げまどう彼らを思うと怒りがこみ上げてきたが、帰りのバスの時刻も気になったので再び周山街道へ出た白川女 [京都]
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白川女
銀閣寺道から山中越えに向かう道は白川に沿ってなだらかに登ってゆく。途中の北白川神社前の広場では、これから市内に出かける白川女たちがめいめいの今日行く場所を話し合っているのだろうか、年配の女性を中心に談笑していて、白川の瀬音が絶え間なく聞こえていた。新宿駅西口広場を追われ下宿に転がり込んだ友と明け方まで語り合い革命と恋の悩みを聞かされたのは、まだ北白川に残っていた花畑に矢車草が揺れるさわやかな日だった。彼の思いはついに実を結ぶことなくただ傍観するだけの群衆の中に消え、その後僕は反戦活動に身を投じ、下宿は警察の手入れを受けることになった。