築地明石町

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築地明石町

　昔東京は水の都だった。橋からは病院の塔や本願寺の銀杏の木々、漁師や舟人のつつましくも優しい昭和の営みが眺められた。東京大空襲を免れた築地明石町は、幕末の歴史を物語る史跡と古い家々が並ぶ落ち着いた町で、その中を築地川が流れていた。政治家が経済成長を声高に叫ぶようになると東京の景色は激変する。オリンピックとそれに続くモータリゼーションの進行が都内のいたる所で川や掘を埋め立て暗渠化して道路に変えてしまい、どこもかしこも潤いのない埃っぽい東京砂漠となった。経済効率優先の政策は物質的豊かさと引き替えに心と自然の豊かさを奪う。いつのまにか水辺に遊ぶ鳥も水面にはねる魚も水に映る雲さえ見えなくなり、殺到する車と人の波の中で今はただ戸惑うばかりである。