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高宮の時雨 [イラスト]

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高宮の時雨

 京都を発ち草津で東海道と別れて北上すると、琵琶湖へ注ぐいくつかの川を越え犬上川の橋を渡って中仙道高宮の宿に至る。高宮に移り住んだ頃、既にゲバラはボリビア山中で消息を絶ち、アメリカの若者はベトナムの泥沼に足を取られ、パリのカルチェラタンは学生に占拠されていた。高宮はそんな世界情勢と関係なく、多分百年前からそうであっただろう紅殻格子の家が街道に沿う宿場町の雰囲気を残す静かな町で、晩秋から冬にかけては雨や小雪の舞う日が続いた。時雨が残った最後の紅葉を散らして過ぎていったある日、蛇の目傘をたたむ妙齢の女性の姿に思わず息をのんだ20代だった。

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鶴見線国道駅 [横浜]

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鶴見線国道駅

 幼なじみが何人も集まるというので、鶴見線の国道駅で降り会場に向かった。駅の階段を下りてゆくと、ガード下の赤提灯といい、薄暗い通路といい、何十年も前の雰囲気は少しも変わっていない。父親に手を引かれて近くを通ったときの、工場の大規模なストライキで気勢を上げる工員が道に溢れかえり騒然としていた記憶が甦る。今の労働者にはもうストライキをやる気概もなく、コンクリートに残る機銃掃射の痕が戦争があったことを語るだけである。
 昼間ば降りる人も希で閑散としていて、若い娘さんのサンダルの音がやけに大きく響いてくる。この駅には不似合いなおしゃれな姿を若い駅員が眺めていた。



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